世界の資本主義は17世紀以降にオランダから始まり、ピューリタン革命、産業革命を経て覇権は英国に移った。第1次世界大戦を経て米国が覇権国家となった。

以来100年余り、今も米国は世界一の強国で、2024年の名目GDPでは米国が26%強、2位の中国が17%弱を占めるが、米国は衰退気味。先の米中首脳会談でも習近平中国国家主席から「衰退国家」と名指しされたが、トランプ米大統領は反論できなかった。2010年ごろ中国が2位に躍り出た後、差は確実に縮まっている。

米国のトランプ政権が関税を武器に保護貿易に走り、国際法に違反してイランなど主権国家を攻撃するなどグローバルな秩序を破壊する中で、中国は自由貿易の旗を掲げている。識者の中で、「10年、20年単位で見れば、中国が覇権を握る可能性を押さえておいた方が良い」(出口治明・立命館アジア太平洋大学前学長)との見方が高まっている。

こうした中、国際情勢に詳しい中西寛・京都大学法学部教授がこのほど日本記者クラブで講演し、「国際秩序の『終わりの終わり』が始まったと分析した。中西教授によると、第2次世界大戦後にできた米国中心の国際秩序の「終わり」は米国発の世界経済危機が起き、中国が初の五輪を開催した2008年に始まった。その後、中国やロシアなど、欧米中心の秩序に真正面から異を唱える国家指導者が登場。欧米と対立する国が世界の大勢になった。欧州連合(EU)から離脱した英国など戦後秩序を主導してきた国が大きく方針を切り替える中、新型コロナウイルスが世界的に流行した。ウイルスとサイバー空間の浸透が世界の分断を深め、国際秩序の「終わりの終わり」につながったと分析する。

第2次トランプ政権は大規模な関税政策や同盟国などへの軍事的な威圧を繰り返し、「従来の米国の戦後外交を否定する外交路線の流れ」の中でイラン戦争につながった。

秩序の「終わりの終わり」は何をもたらすのか。中西氏が示すのは、1973年の石油危機でもたらされたペトロダラー体制の終焉だ。

第2次大戦を惹起した1930年代のブロック経済時代に近づく

73年の石油危機を受け、米国はドル基軸の原油取引の仕組みを形成。ドル建て資産への世界的需要により「ドル覇権」が確立されたが、中西教授はイラン戦争後「ドル覇権の体制には戻らない」とみる。米国が自国の石油と天然ガスを囲い込み、第2次大戦を惹起した1930年代のブロック経済に近づく恐れもあると警鐘を鳴らした。

さらに、中東に「世界の地政学的問題が集まる可能性がある」と指摘。終戦に向け仲介するパキスタンやインド、中国、東南アジアを挙げ、「全般的にアジアと中東情勢の政治的関係が深まっている」と分析した。

また、21世紀に入ってトランプ関税、米欧関係の亀裂などから「グローバル化の岐路にある」との見方を示した。

文化功労者で政策研究大学院大学学長、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所所長などを務めた白石隆・熊本県立大学特別栄誉教授は日本記者クラブでの講演で「この四半世紀の間に、世界のGDPに占める米中両国の割合は33%から43%へ高まった。米中関係が緊張すれば新冷戦が起きる。単純な理屈だ」と話した。内訳は30%から26%へ目減りした米国に対し、中国は3%から17%に急伸。一方、新興国・途上国は21%から41%へ倍増した。

グローバル化を先導してきた米国が、トランプ政権下で高関税政策のような極端な保護主義に走ったことで、新興国の台頭もまた転機を迎えている。

全体的に新興国の大半は権威主義国となり、右肩上がりの経済発展は自国民とのある種の社会契約。各国の政治、経済、社会の状況をきめ細かく追っていく必要があり、「グローバルサウスは一つではなく、一つ一つ」という。

既存の国際秩序は(1)パクス・アメリカーナ(2)ドル基軸と自由貿易(3)民主主義(4)市場経済――という四つの制度的な柱によって支えられてきたが、トランプ政権下でそのすべてが揺らいでいると懸念した。

世界の大半の国で中国が最大の貿易相手国になっており、日本も例外ではない。中国は13億人の人口を背景に市場としての規模も世界一。製造業を中心とする産業の広がりも米国をはるかに上回る。

東南アジア諸国では「米国と中国のどちらが頼りになるか」との各種世論調査で、「中国」が過半数を占め、米国への信頼が薄れていることが明らかになった。欧米、ロシア、アジア、アフリカなど主要国首脳の中国訪問も相次いでいる。

「西半球=米国、東半球=中国」との分割型G2

トランプ大統領が標榜している「ドンロー主義」「G2」についても言及し、「米中は共に繫栄することができる」と語った。

「ドンロー主義」とは、トランプ大統領(Donald Trump)の「ドナルド(Don)」と19世紀の米外交原則「モンロー主義(Monroe Doctrine)」を掛け合わせた造語。「西半球(アメリカ大陸)を米国の勢力圏として強く支配・介入する」という拡張的な外交方針を指す。

米国の国家安全保障戦略でも「西半球の優位性回復」を明記し、軍事・経済的圧力を強化する姿勢が示された。「西半球=米国、東半球=中国」という分割型G2はトランプ政権2期に強く現れた。

トランプ版G2の特徴は、多国間主義(国連・WTOなど)を軽視し、首脳同士のディール(取引)外交を重視することだ。米国は西半球を自らの勢力圏とみなし、中国がアジアで一定の影響力を持つことを事実上容認する姿勢が見られた。

米国最大の日米交流団体ジャパン・ソサエティーのジョシュア・ウォーカー理事長は日本記者クラブでの講演で「私にとって日本とアメリカは変わった」と指摘、日米同盟が大きな戦略的転換点にあると憂慮した。トランプ大統領は高関税政策に加え、イラン攻撃に協力しない民主主義各国に不満をあらわにし、「西側の同盟はなくなった」と嘆いた。台湾有事が起きる可能性については「米国が大統領選で最も内向きになる2028年に、中国が台湾を香港のようにするのではないか」と中台統合の可能性を示した。

今回の米中首脳会談の表裏をフォローしたが、米中ともに台湾を巡って交戦する「台湾有事」を否定。「建設的戦略的安定関係」構築で合意した点に安堵した。中国は「古来の『戦わずして克つ』との基本方針に基づき」「平和的な統一」を目指している。トランプ大統領も15日、記者団に「(中国は)現状のままなら何もしないかもしれない。ただ今の台湾には独立を望んでいる人がいる。

独立というのは危険なことだ」と警鐘を鳴らした。

日本政府は「ドンロー主義」と「G2」論により米国のアジア関与が低下する可能性を警戒するが、米中首脳会談によって東アジアで戦乱の危機が遠ざかったのは事実。これは日本と世界にとって歓迎すべきことだ。

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