インド当局はこのところ、自国の映画界について「作品に中国非難を盛り込むな」といった方針を打ち出し、制作側が内容の修正を余儀なくされたり、公開を見合わせるなどの影響が出ている。インド国内では賛否両論が発生している。
中国とインドの関係は極めて複雑だ。まず、国境問題をめぐり、事実上の戦争である中印国境紛争が2度にわたり発生した。両国は関係を安定させる努力もしてきたが、国境地帯での小競り合いもしばしば発生している。また、中国はパキスタンと、「極めて親密な関係」を構築してきた。インドとパキスタンの関係は悪く、戦争を繰り返し、さらに現在は双方が核兵器を保有して対峙している。つまりインドにとって中国は「敵の味方」ということになる。インドと中国の相手国に対する国民感情も良好とは言えない状態で、例えばインドの映画作品に「中国への悪口」が盛り込まれていれば、多くの観客が溜飲を下げるなどの状況がある。
一方でインド政府は現状において、中国との関係の改善を求めている。その背景には、米国のトランプ大統領の高関税政策の一方的発動がある。インドにとって経済面での中国との関係強化は、トランプ大統領の動きをにらみながらの「リスクヘッジ」の効果が期待できるからだ。中国にとってもインドとの関係改善により「インドが米国側に完全に味方するのを防ぎ、自国の外交的孤立を避ける」ことを期待できる。
インドでは最近になり、多くの映画人が「政府は我々に、映画製作の中に私見を持ち込んで中国を非難しないよう警告している」と表明するようになった。サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、インドでは当局の力により、新作映画の修正や公開延期、公開見送りが相次いでいる。
インド映画界の大スターであるサルマン・カーンが主演した戦争ドラマ映画は、当初のタイトルの「ガルワンの戦い」の変更が要求され、かつ40%が撮り直しを命じられた。同作品は4月17日の公開予定だったが、現在の軍および映画関係部門の公開許可を得られていない。なお「ガルワン」とは、2020年に中印両軍の衝突により双方で計60人以上が死亡した場所のガルワン川流域を指す。
また、別の「ガルワンの獅子」は、制作が取りやめられた状態だ。プロデューサーのヒマル・ダサニ氏は「私たちはクランクインの前に脚本をインド国防省に提出して審査を受けねばなりません。指示はすでに受け取りました。中国を非難してはならない、です」と説明した。ダサニ氏は「ならば、この映画を撮影することに、もはや意味はありません」と述べた。
インドの映画監督でプロデューサーも務めるオニール氏は、当局のやり方はインド映画の「選んで創作する自由」がどのようなものか説明していると述べた。
一方で、政府の方針を支持する人もいる。
また、インド陸軍退役少将のバクシ氏は「もし中国とインドが関係を緩和したいならば、インド側はなぜあちこちでトラブルを引き起こさなければならないのか」「もし政府が一部のシーンの撮り直しを指示したと言うなら……その背後には間違いなくその合理性がある」「もし両国がともに関係改善を望むなら、一時的に映画の中にナショナリズムの物語を組み込むことを避けるのは論理に合致したやり方だ」と述べた。
さらには、インドの映画界が作品中に中国非難を持ち込み、観衆のナショナリズムを煽(あお)ることで人気を得てきたことが、そもそもの問題と指摘する声もある。インド政府は中国との対立について、ナショナリズムを盛り上げることを、国民の支持を取り付けるための一助にしてきた経緯があり、インド映画界は「中国非難」に便乗してきた面があるからだ。
ドキュメンタリープロデューサーのアディティ・シャルマ氏は、国家のプロパガンダから利益を得てきたインドの映画業界が一方で、国家によるプロパガンダのコントロールに「驚き」を示したことはおかしいと論じ、現在のインド映画界側の怒りは「とても空虚に見える」と評した。(翻訳・編集/如月隼人)











