7月20日、「映画プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」DVDブルーレイディスクが発売される。発売を記念して「プリキュアオールスターズDXシリーズ」プロデューサーの鷲尾天さんと、監督の大塚隆史さんに映画の制作秘話などを伺った。
歴代プリキュア映画を一晩かけて上映するイベント「ナイトカーニバル」(レビュー)での、おふたりの対談がとても面白かったので、もっと聴きたいと思ったのだ。「DX3」におけるスタッフの活躍や、震災の影響で再確認した「プリキュア」という作品の方向性など、たくさん聞いてきました。


毎回心に掲げることはひとつ

――「ナイトカーニバル」お疲れ様でした。大変楽しかったです。
鷲尾 「ナイトカーニバル」では本当に言いたいことがたくさんあったんだけどなかなかうまく表現できなくて……2日ぐらい経ってからすごく反省しました(笑)
――では今日は存分にお聞かせ下さい。さて、7月20日から「DX3」のDVDとブルーレイが発売されます。
「プリキュア」作品では「映画プリキュアオールスターズDX2 希望の光☆レインボージュエルを守れ!」(2010年7月21日発売)からブルーレイが発売されるようになりましたが、なぜ「DX2」からだったのでしょうか?
鷲尾 子どもたちがいる家庭は、ブルーレイよりDVDのほうがメインだったので、ブルーレイの必要性をあまり感じていなかったんです。ただ普及率も上がってきたので、「DX2」で試験的に出してみたら、非常に好調だった。なので遡って「映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合」、そして今回「DX3」もブルーレイを出すことになりました。おかげさまで「DX3」は予約も非常に好調だったようです。
――ブルーレイのために、なにか特別なことやろうとしたりはありましたか?
鷲尾 う~ん、ブルーレイだから、というのは特にはないです。もともと映画館で上映することを目的として作っていますから、クオリティという面では問題ないですし……そうそう、オープニングのフルバージョンの映像が入っていますよ! ってそれはDVDも一緒か(笑)。

――「映画プリキュアオールスターズDX」は「DX1」「DX2」「DX3」までの3部作になっています。最初から3部作という構想があったんでしょうか?
大塚 いいえ。毎回「これが最後だ!」と思って作っていました。でも「DX3」の制作が動き出したときに、自分の中で「プリキュアオールスターズはこれでおしまいにしよう!」と決めました。
――「DX1」でプリキュアは14人、「DX2」で17人、「DX3」で21人とどんどん増えていって、作業的にも大変だったんじゃないでしょうか。
大塚 作画の作業をはじめ、ラクになることは何一つありませんでした(笑)。
でも毎回心に掲げることは一つ。「最高におもしろいプリキュア映画を作りたい」、ただそれだけです。それにはまずお話作りですが、「DX」はどれも大変でした。「映画」には「登場人物の成長」が不可欠なのですが、この映画では歴代の完成されたキャラクターたちが集まってくるという、イレギュラーな作品なんです。例えば「ふたりはプリキュアMaxHeart」ではブラックとホワイトがすでにジャアクキングという強大な敵に対し、精神的な面で打ち勝っています。同じように「DX1」ではどのシリーズも最終ボスを倒した後の話の続きのつもりで物語を構成していますので、そんな彼女たちはもう何があっても動じないんですよ。
つまり「成長」の伸びしろがない。もしあるとするならそれは、彼女たちが「体験したことのない状況」に出遭うことですが、それはもう無いと思っていた。でもそれを考えることがこの映画の「全員集合」の意味を見いだすことに繋がったんです。
――その意味とはなんだったのでしょうか?
大塚 「DX1」では「自分たち以外の『プリキュア』と出会うこと」で、今までにない「新しい感情」が生まれて心が動き、新しい物語の扉が開く。それに気付くことができた時、「DX1」が完成しました。でも次の「DX2」ではもうその方法は使えない。
新米のブロッサムとマリン以外はすでにその感情を乗り越えていますから。ですので次は、「新米プリキュアが歴代プリキュアたちから精神を継承し、成長していく」という「明確な主役を据える」形を取った。そして「出会い」「成長」ときたので、次のテーマは「旅立ち」と繋がっていったんです。
鷲尾 「プリキュア」を子供と一緒に観ている親御さんが、「プリキュアはいい子たちだね」と言っていたと聞いて、親子が楽しんで観ることのできる作品をつくり続けてきて本当によかったと思いました。
――21人もいるので、台詞を考えるのも大変だったのでは。
鷲尾 脚本の村山功さんには「短くてもキャラクターたちを表現できる台詞があるはずだから、考えて」と投げていました。
あとは、その台詞やストーリーをどう消化して映像として表現するのか、大塚監督が絵コンテで熟考し、作画監督の青山充さんが絵で表現して、役者さんが感情を吹き込んでいく。こういった作業は、先を急ぐと荒れてしまいますから、一つひとつのシーンを大切に作っていく。「次も同じ感じでお願いします」とは言えない。毎回与えられる新しいシチュエーションに対して本気で考えて作り続けないといけないんです。


「わかりやすさ」を一番に考えています

――「DX3」ではこれまでのようにキャラクターを各シリーズ毎にまとめないで、シリーズの垣根を越えてキャラクターをシャッフルする、というのは前提としてあったんでしょうか。
大塚 シャッフルのアイデアは「DX1」のときからありました。コラボ作品の醍醐味ですからね。でも「DX1」では「違うプリキュアとの出会い」を大切にしました。それにコラボを推すと、すべての「プリキュア」を知っていないと楽しめない映画になってしまう。「DX1」ではそれは絶対に避けたかったので、各シリーズを紹介するようなスタートではじまり、出会い、最後に集合する、という形にしました。
鷲尾 「DX2」では「継承と成長」を重点に置く展開のため、同様に断念しました。そのときはシャッフルの意味が見い出せなかったんです。3本目の「DX3」じゃないと、あのバラし方はできなかったですね。
大塚 絆の再確認です。シャッフルすることで、いつものパートナーがいない状況になり、ちぐはぐなんだけどピンチな状況を乗り越えるために、みんな新たに力を合わせてチームとしてまとまることができる。見ていて面白いし、新しい成長があります。パートナーが変わっても私たちはプリキュアだ! と新たに気持ちがひとつになると同時に異空間から脱出できる。そして再び元のパートナーと一緒になったとき、以前よりも強く絆を確認できる。前以上の力が出せるんです。前に進むプリキュアたちを相手に、過去のコピー怪人たちなんかでは到底太刀打ちできない。そういった意味を見い出してきちんと表現する方法を思いついたときに、はじめてシャッフルができると思えたんですよ。
鷲尾 バラバラになったチーム同士ではどんな会話になって、どんな混乱があるのかを考えるのも楽しかったですよ。各シリーズの主人公で構成されたピンクチームと、主人公のパートナーが多いブルーチームの混乱の仕方は違うはずだ、イエローチームはこれはもう話進むのかね?(笑)、とか、村山さんらとずっと打ち合わせをしていましたね。
大塚 「DX」シリーズは例外なく「わかりやすさ」を一番に考えています。シャッフルチームの構成もそうですし、背景の色やステージ内容もそうです。赤いプリキュアが赤い砂漠の迷路を猪突猛進に越える、青いプリキュアが青い海を頭を使って越える、黄色いプリキュアが黄色や緑のスゴロクをノリで越える、紫の空は小動物の頑張るシーン……など、わかりやすいでしょ?(笑)。シーンわけが色や見た目で分かるように考慮しています。説明を省いて時間を稼ぐ作戦でもあるんですけどね。
鷲尾 70分の映画によく詰め込んでくれました。楽しいシーンを入れようという話もよくしましたよね。
大塚 観ていて少し休める楽しいシーンを入れたかった。プリキュアたちがずっと戦っていて、シリアスなシーンばかりだと見ている子も疲れますからね。だからイエローチームのスゴロクは外せなかった(笑)。ミラクルライトを使うシーンも2回入れています。
――最初のミラクルライトのシーンは、真ん中くらいの時間にあるので、ライトの事を思い出したように子どもたちが振りだすんですよね。
大塚 「最高におもしろいプリキュア映画」とは一体なんなのか。その答えは毎回同じだけど、毎回違っていて。もっと楽しくするにはどうしたらいいか、みんなでずっと考えていました。テーマと面白さをちゃんとリンクして70分の映画にまとめる。考えている間はすごく大変でしたけど、すごく幸せな時間でしたね。
鷲尾 色んな話をしたよね。たいていは仕事の話じゃなくて、ただの雑談みたいなもんなんですけど(笑)。意外とそういうときの方がアイデアも出たりするんです。
大塚 3部作最後のシメである「DX3」の一番最後のカット。作品を愛してくれた全ての方々への感謝の想いを込めて「ありがとう」にしました。僕がもっとも美しいと感じる、大好きな言葉です。
(加藤レイズナ)

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