新作OVA「これが本当のアンツィオ戦です!」の発売もひかえ、いまださめやらぬ「ガールズ&パンツァー」旋風。一方でガチな戦車戦が無料で楽しめるとあって、一部ゲーマー層に絶大な注目を集めていた「World of Tanks」がiOS向けに移植され、「World of Tanks Blitz」として配信されました。いやー、これ、すごいですよ。今後のゲームの方向性を大きく決定づけそうな気がします。

ゲームは多人数参加型のオンライン戦車ゲームで、開発・配信元はベラルーシのWargaming.net社。2010年にPCゲームとして配信が開始され、瞬く間に世界中で大ヒットしました。2014年にはXbox 360向けに「World of Tanks: Xbox 360 Edition」がリリースされ、ゲームパッドでもプレイ可能に。そして満を持して今夏、スマホのタッチ操作でもプレイ可能になりました。今はiOSのみですが、Android版のリリースも予定されています。

ゲームの概要については、すでにXbox 360版でレビューしましたので重複は避けますが、早い話がこれ、「中年向けのFPS(一人称視点シューティング)」です。戦場を駆け巡る一兵士となって、バリバリと銃を撃ちまくり、敵を殲滅すれば勝利というのが基本的なスタイル。「Halo」とか「Call of Duty」とか、世の中には名作FPSがたくさんあります。ただし、反射神経が衰えてきた中年ゲーマーには少々厳しいんですよね。

でも本作ならダイジョーブ! 操縦するのは戦車なのでスピードが遅く、キビキビと動けません。その場で左右に移動したり、ジャンプしたりもできません。エネルギー兵器をバリバリ撃つこともできません。だってほら、戦車だから。それよりもステージ上での位置取りが重要です。1回のプレイ時間も数分程度と短く、途中でやられてもサクサクとリトライできるので、ハマること間違い無しですよ。

なおPC版では最大15人ずつのチーム戦でしたが、スマホ版では最大7人ずつで、マップも縮小されています。他に選択できる戦車がドイツ製・ソ連製・アメリカ製のみ(PC版では他にフランス・イギリス・中国・日本も選択可能)で、ゲームモードもランダムマッチのみと簡略化されています。マップの縮小に伴い、自走砲も登場しません。しかし、それだけにカジュアルな戦車戦という「うま味」がギュッと濃縮された感じです。また対戦人数以外は、今後のアップデートに期待できそうです。

過去のレビューでも書きましたが、勝利のコツは装甲の薄い側面や背面から攻撃すること。もっとも相手も同じことを考えているので、味方車両との連携や、地形や遮蔽物の活用などが求められます。慣れないうちはコバンザメよろしく味方の後ろをついていき、数的有利な状況で戦うと良いでしょう。またマップが小さくなったことで、軽戦車の偵察車両としての役割が減った反面、駆逐戦車の狙撃手としての役割がクローズアップされた印象です。遮蔽物に隠れて遠隔地からズドンと一発、ぶちかましてやりましょう!

さてさて、本作の特徴は1■.モバイル環境でプレイできる 2■タッチによる操作に特化している 3■.ミッドコア向けのF2P(基本プレイ無料のアイテム課金)である−−などに整理できそうです。3Gや4G回線でも支障なくプレイできる点は驚きのひとことで、ベラルーシの技術力は世界いちぃぃぃ!かも。PCと異なり、スペックをさほど気にすることなく遊べるのもメリットです。ただしiPhoneで遊ぶと画面が小さすぎるため、タブレットでプレイするのがよろしいかと。いやほら、だんだん小さい文字がね、厳しくなるんですよね。

タッチによる操作で、砲塔の回転などがしやすい点も特徴です。アイテムの使用やスナイパーモードへの切り替えなど、画面上のアイコン類も人間工学的に良く考えられた配置だと思います。ただしiPadでは画面が大きく、指が届きにくいので、自分の手にはiPad miniが一番しっくりきました。移動を画面上のバーチャルパッドで行うため、ちょっと操作しにくい点は難点ですが、それを補ってあまりあるユーザーインターフェースです。自分の場合は操作ミスが激減しました。

そして最後の点が、コアユーザーとカジュアルユーザーの中間に位置する、ミッドコアと呼ばれる層をターゲットにしたF2Pゲームであること。スマホの無料ゲームが大ヒットしたため、今や家庭用ゲームをプレイするのは、コアユーザーだけという位置づけになってしまいました。一方でカジュアルなゲームだけでは物足りない。そんな中間層が世界中で拡大しています。彼らに対してリッチなゲームを、主にタブレット向けに提供する−−その最右翼だと言えるでしょう。今後もタブレット向けのゲームが増加しそうです。

ちなみに課金ポイントとソーシャル性が少ないのも特徴です。コンプガチャ問題などで叩かれたソーシャルゲームですが、今や「パズル&ドラゴンズ」を筆頭に、モバイルゲームのソーシャル志向が限りなく薄まってきています。課金しても特別有利になるわけではなく、積極的に課金したいというアイテムもない。ものすごく儲からなさそうな作りなんですよ。にもかかわらず「ゲームのクオリティの高さ」や「国や文化に縛られない内容」などで世界中で大ヒット街道ばく進中。日本語ボイスが棒読みなのも愛嬌ですよね!

同社では第二弾として、第二次世界大戦時の空戦がテーマの「World of Warplanes」をPCゲームでリリースしており、第三弾として海戦モノの「World of Warships」も開発中。日本法人のウォーゲーミングジャパンでは、「Warships」のαテストを実施しており、国内向けに着々と準備を進めています。「艦隊これくしょん〜艦これ〜」の大ヒットもあり、こちらも盛り上がるのではないでしょうか。もっとも日本ではPCではなくモバイルが主流。「Warships」モバイル版の早期投入を期待したいところです。
(小野憲史)