
(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)
連続テレビ小説「スカーレット」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)
第12週「幸せへの大きな一歩」72回(12月21日・土 放送 演出・中島由貴)
結婚式の家族写真を撮るため、喜美子(戸田恵梨香)が髪を結ってきれいにお化粧して着物を着付けたところに、窯業研究所の橘ひろ恵(紺野まひる)から、コーヒー茶碗の注文があった。お花の絵が描いてあって気に入ったのだとか。
一個400円と言われ、10個作ったら写真代が払えると、写真屋の中村さんを待たせ、八郎(松下洸平)を伴ってカフェサニーに駆けつける喜美子だったが、一気に80個の注文に怖気づく。
喜美子は、自分は女性陶芸家ではまだない。八郎(松下洸平)がいてくれたからできたものだと断るしかなかった。
8個つくるのもせいいっぱいだったから実際できないと思ったのだろうが、これから夫となる八郎の立場を慮ったようにも思うし、そのときの八郎の表情がなんだか険しかったように見えたのは気のせいだろうか。
もっとも、八郎はいつか独立したら注文してほしいと言ったので、自分もまだ一人前ではないという自覚がそういう顔をさせているのかもしれない。
紺野まひる 登場
橘は、お花を茶碗の底に描くアイデアを使ってもいいかと悪気なく言う。特許というほどのことではないとはいえ、アイデアだけもっていくのはどうなんだろう? 喜美子たちはこの悔しさをばねに大量生産もできるように腕を磨くということか。
そんな橘を演じた紺野まひるは「てるてる家族」の長女・春子役をやっていた。「てるてる」を書いた大森寿美男の「なつぞら」の朝ドラ出演者シリーズには出ず「スカーレット」に出るのは、事務所が戸田恵梨香と福田麻由子と同じフラームつながりか。
話を聞いてるときのみんなの表情に注目
八郎の表情も気になるが、後ろでホットケーキを食べながら聞いている大野一家(マギー、財前直見、林遣都)の表情も印象的。他人事だけど気になるという微妙な感じが三人とも見事に出ていた。
71回でも、マギーがやたら後ろに映っているのも面白かった。右のほうからと左のほうからとカメラの角度が違うにも関わらず、どっちにも映っているのである。昭和の映画の脇役みたいな粘りだ(それでいて、悪目立ちはしないで、さりげないところが巧い)。本人が意識的にやっているわけじゃなくてカメラが狙っているのかもしれないけれど。
マリリン・モンロー ふひゅーー
「なんやその頭は」
常治(北村一輝)は、期待にたがわず言ってくれた。パーマをかけた直子(桜庭ななみ)に。
マリリン・モンローを意識した髪型らしいパーマで、百合子が、モンローがめくれたスカートをおさえるお色気シーンの真似をして、直子がそうじゃないと見本を見せ、マツ(富田靖子)までが真似をする。
こういうたわいないやりとりが楽しい。
「どすのきいた声でやらしいこと言うな」
話は一気に昭和40年、夏。
八郎と喜美子は丸熊陶芸を独立、電気釜も購入した。喜美子は大量生産品を請け負って生活を支えている。橘の注文を応えられなかった悔しさをちゃんと乗り越えたのだなあ。
子供・武志も生まれた。子供までゴロゴロ!
はじめて子供ができる喜びや戸惑いや、もろもろをすっ飛ばすのは、スカーレットのお馴染みの飛ばし芸で、もはやなんとも思わないし、むしろ待ってました!感だが、驚いたのは、百合子(福田麻由子)が短大を諦め就職していたことだ。ナレ就職。ナレ夢諦め。
あんなに夢について語っていたのに諦める部分はショートカットだった。その昔「まれ」のレビューで、夢に向かっての努力のあれこれショートカットし過ぎではないかと書いたが、「スカーレット」は夢自体を刈り取ってしまった感じである。
喜美子が、陶芸作業中で、手が離せないとき、「口移し」で、麦茶(たぶん)を飲ませてとねだると、八郎が「どすのきいた声でやらしいこと言うな」と返す。この感じがすっかり長く生活している夫婦の感じで、結婚写真のときはじめて「八郎さん」と呼ばれて八郎が驚くという初々しいときとはまったく違っている。6年という時間がふたりを変えたのだ。
琵琶湖大橋の取材をしていたちや子(水野久美)が当たり前のように訪ねて来ているのも、「水野美紀再登場」というワンピースにフォーカスするのではなく、自然に馴染んでいる感じも面白いと思う。喜美子の結婚を祝って八郎の印象をどうのこうの言うのとか、予想できてしまうし、このパターンだったらなんなら朝ドラ好きの視聴者でもあるある脚本が書けてしまう気さえする。そうじゃない、あるあるじゃない、プロにしできない表現やよし! である。
行事や大きな局面が人生の変わる契機になることはあるが、実のところ、日々の積み重ねが人をじわじわ変えていくので、そちらを大事にしているドラマだと思う。喜美子は妻となり母となり、陶芸家としての夫を支え、才能あると言われても自ら作品をつくろうとはしない。ちや子はそんな喜美子がもどかしそう。
喜美子のこれからも気になるが、最も気になるのは、常治が働きすぎで、体調が悪くなっているらしきこと。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)
登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)
●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空 主人公。中学卒業後、大阪の荒木荘に女中として就職。三年働いた後、信楽に戻り、丸熊陶業初の女性絵付け師となるが、絵付け火鉢が下火になり、陶芸の勉強をはじめる。陶芸の先輩・八郎と結婚。川原家に離れを建てて暮し始める。
十代田八郎 → 川原八郎…松下洸平 8人きょうだいの末っ子。父母は亡くなっている、京都の美術大学出身。丸熊陶業の新商品開発の仕事に携わり、喜美子と結婚(婿入り)。陶芸家として独立する。
川原武志…又野暁仁 喜美子と八郎の長男
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったが常治と駆け落ちして結婚。体が弱く家事を喜美子の手伝いに頼っている。ぼんやりして何をしているのかよくわからないながら、なぜかなくてはならない存在感を放っている。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京の熨斗谷電機の工場に就職。恋したりパーマを当てたり、都会暮しを満喫。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃 末っ子でおとなしかったが、料理もするようになり、直子が東京に行くと気丈になっていく。家庭科の先生になるため短大進学を目指すが、結局就職する。
●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。
熊谷秀男…阪田マサノブ 信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。娘には甘い。昭和34年、突然死。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母。敏春を戦死した息子の身代わりのように思っている。
熊谷敏春…照子の婿。 京都の老舗旅館の息子。新商品開発に意欲を燃やす。
社長となり、八郎に期待を賭ける。
●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の幼馴染。子供の頃は心身共に虚弱だったが、祖母の死以降、キャラ変しモテるように。高校卒業後、役所に就職する。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。大手雑貨店の影響で雑貨店からカフェに商売替えする。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。マツの貯金箱を預かったことで離婚の危機に直面するが一件落着。カフェサニーをきりもりしている。
●信楽の人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。
工藤…福田転球 大阪から来た借金取り。 幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
保…中川元喜 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
所沢…牛丸裕司 信作の上司
黒岩次郎…上野俊介 幼少期 溝上空良 信作の幼馴染 お見合い大作戦に参加する。
田畑よし子…辻本みず希 お見合い大作戦に参加、信作に好意を寄せるが、9対1で嫌いと振られる。
●信楽 丸熊陶業の人々
城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
緑…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
西牟田…八田浩司 丸熊陶業の中堅社員。
深野心仙…イッセー尾形 元日本画で戦後、火鉢の絵付け師となる。喜美子を9番目の弟子にする。
若社長の代になり、長崎の若手陶芸家・森田隼人に弟子入りすることにする。
池ノ内富三郎…夙川アトム 深野の一番弟子。深野組解散にあたり、京都に就職。
磯貝忠彦…三谷昌登 深野の二番弟子。深野組解散にあたり、大阪に就職。
藤永一徹…久保山知洋 陶器会社で企画開発をやっていて、敏春に雇われる。
津山秋安…遠藤雄弥 大阪の建築資材研究所にいて、敏春に雇われる。
森田隼人…長崎の陶芸家。深野が弟子入りを申し込む。
柴田寛治…中村育二 窯業研究所の所長
橘ひろ恵…紺野まひる 窯業研究所所員 喜美子の花の描かれたカップを気に入る。
●大阪 荒木荘の人々
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者だったが、不況で、尊敬する上司・平田が他紙に引き抜かれたため、退社。女性誌の記者となり、琵琶湖大橋の取材のおり、信楽の喜美子を訪ねる。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。
●大阪の人たち
マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。
泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。
ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
十代田いつ子…しゅはまはるみ 八郎の姉 大阪で髪結いをしている。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいて、帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道(草間流柔道)を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。東京に住んでいたが、台湾に貿易の仕事に行くことに。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。
あらすじ
第一週 昭和22年 喜美子9歳 家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
第六週 昭和31年 喜美子、信楽に戻り、丸熊陶業で働きはじめる。
第七週 昭和31年 喜美子、火鉢の絵付けに魅入られ、深野心仙の弟子になる。
第八週 昭和34年 喜美子21歳 「信楽初の女性絵付け師ミッコー」として新聞に載る。
第九週 昭和34年夏、丸熊陶業の社長が亡くなり深野組解散。秋、喜美子の絵付け火鉢が完成する。
第十週 昭和34年秋、喜美子、十代田八郎に陶芸を習いはじめ、彼に恋をする。
第十一週 喜美子と八郎、結婚を誓う。昭和34年年末、陶芸展出品作づくりに八郎は励む。
第十二週 昭和40年、喜美子と八郎、独立し、男の子も生まれている。川原家は離れを作ったせいで未だ貧乏。
脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき