杉江松恋に関する記事一覧
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本日決定!書評家・杉江松恋の第162回直木賞候補全作レビュー&予想。「SFは直木賞を獲れない」か?
芥川賞に続き、直木賞も第162回の予想である。候補になった五作、作者五十音順で以下の通り。小川哲『嘘と正典』(早川書房)川越宗一『熱源』(文藝春秋)呉勝浩『スワン』(KADOKAWA)誉田哲也『背中の...
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本日決定!書評家・杉江松恋の第162回芥川賞候補全作レビュー&予想。一番「らしい」小説は「音に聞く」
本日選考会が行われる第162回芥川賞の候補作は五作。作者五十音順で以下の通りだ。木村友祐『幼な子の聖戦』(「すばる」11月号)高尾長良『音に聞く』(「文學界」9月号)千葉雅也『デッドライン』(「新潮」...
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古市憲寿『奈落』が凄い。小説史上またとない残酷なキス。吐き気がこみ上げるほどの孤独を描ききった
バックナンバーはこちらから吐き気がこみ上げるほどの孤独を小説の文章で描き切った。古市憲寿『奈落』は虜囚の境遇にある女性を主人公にした小説だ。その苦衷の心中を想像することはできるが、彼女の心の底まで到達...
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おや、この作者、人の心を書こうとしているな『深淵の怪物』「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらからおや、この作者、人の心を書こうとしているな。木江恭『深淵の怪物』のページをめくりながら、そんなことを思ったのである。著者にとっては初の著書となる短篇集だ。巻頭に収録された「ベ...
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なんでもいいから勢いのいいものを読みたい人にお薦め『地棲魚』「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらからとにかくスリルだけは売るほどある小説だ。狭い山道の後ろから巨大な岩が転がってくる感じ。ジョン・ウィリアムズ作曲のBGMが絶えず鳴り響いていて、一歩でも足を止めたら後ろから押し...
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いわくつきの家? 家を手に入れたのになぜか幸せになれないひとびとの話『うつくしが丘の不幸の家』
バックナンバーはこちらからそれがあれば、どんな夢も叶うというよ。町田そのこ『うつくしが丘の不幸の家』を読み終わったら、そんな文句が頭の中に流れてきた。ゴダイゴの「ガンダーラ」だ。『西遊記』のエンディン...
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セクシュアリティが入念に隠されている傑作「手さぐりの呼吸」「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらからなんと言うのかな。この小説の繊細さに、たぶん一目惚れしたんだ。清水裕貴のデビュー作、「森のかげから」である。今回刊行された初の著作、『ここは夜の水のほとり』に収録されるにあた...
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文藝賞受賞作『かか』の衝撃!小説がここで生まれているのだ「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらから小説が、次々に生成されていく。小説の書評としては少々おかしな表現になるがご勘弁いただきたい。そうとしか言いようのない読書体験だった。目の前で次々に文章が生成され、それが小説に...
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この受賞作の新しさだけは否定できない『時空旅行者の砂時計』「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらから才能、として求められているものの一部は発見なのだ、と改めて思った。誰も読んだことがない小説、だけど誰かに書いてもらいたかった小説。それを期待して本を開く読者に、『時空旅行者の...
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国民の税金で、罪人の最期を安楽に過ごすケアを提供するなんて『シークレット・ペイン』が問う正しさの基準
バックナンバーはこちらから単純な答えの出ない問いについて考えられるのも小説のいいところ、なのである。前川ほまれ『シークレット・ペイン』は、副題に「夜去医療刑務所・南病舎」とあることからわかるように、特...
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あまりお薦めしない、でも圧倒的に読んだほうがいい新人『出航』「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらから速すぎて、身体が千切れそうなほどの疾走感。北見崇史『出航』が読者に提供してくれるものはそれである。文章の板野サーカス、とでも言うべきか(わからない人はお父さんお母さんに聞いて...
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今吸っているこの空気が嫌で仕方がない。太宰治賞『色彩』の光「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらから小説は世の中に自分が一人ではないということを教えてくれる。もし効能というものがあるとすれば、そういうことかもしれない。生きづらさを抱えている人に、自分だけがしんどいわけではな...
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完璧とは言い難いのになぜ推すのか『ブラックシープ・キーパー』「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらから初めに書いてしまうと、第11回角川春樹賞に輝いた柿本みづほ『ブラックシープ・キーパー』(角川春樹事務所)は、特殊能力ものなのである。特殊能力ものはすでにサブジャンルとして定着...
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おおっ『図書館の魔女』高田大介の「初の長篇民俗学ミステリ」だ「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらからミステリーを選んでくれて、ありがとう。高田大介の第三長篇『まほり』(角川書店)が刊行されると聞いて真っ先に思っ浮かんだのはその一言だった。高田のデビュー作は2010年に第45...
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不意打ちの魔術師・小川哲の傑作小説集「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらから二つの時の流れを人は生きている。小川哲『嘘と正典』(早川書房)その異なる時間についての小説集だ。二つの流れとは内なる時間、つまり人生と、人の外部に厳然と存在するもの、すなわち...
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エラリー・クイーンの問いに答える『紅蓮館の殺人』で館を考える「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらからいったい、いくつの〈館〉を見てきたことだろう。阿津川辰海が築き上げた新しい館を眺めながら、そんな感慨に耽ったのであった。現実に目の当たりにする機会などなさそうな機械な建設物。...
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完璧であることのほうが難しいのだ。嶋津輝の数少ない救い「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらから嶋津輝の小説は、この息が詰まる世の中の、数少ない救いなのだ。「オール讀物」2018年10月号に掲載された「一等賞」という作品を読んだとき、そんなことを思った。初の単行本となる...
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たけのこの里ときのこの山の恋愛小説を書いちゃう新人登場「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」
バックナンバーはこちらからなあ、みんな。たけのこの里ときのこの山で戦争している場合じゃないぜ。たけのこの里ときのこの山で恋愛小説を書いちゃう新人が現れたんだ。名前は佐々木愛という。デビュー作は2016...
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新連載「杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」第1回■岩下悠子『漣の王国』書き出しから持っていかれた
文章が美しい。物語に引きこまれる。小説としての仕掛けに感心する。今まで作品に触れたことがない作家の本の場合、この三つの要素のどれか、もしくは複数を満たしているかどうかを気にしながら読む。美しい、と言っ...
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本日決定!書評家・杉江松恋の第161回芥川賞候補全作レビュー&予想。本命は『むらさきのスカートの女』
今村夏子「むらさきのスカートの女」(小説トリッパー春号)高山羽根子「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」(すばる五月号)古市憲寿「百の夜は跳ねて」(新潮六月号)古川真人「ラッコの家」(文學界一月号)李...