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17週「おら、悲しみが止まらねぇ」7月22〜27日(97〜102回)は、いよいよGMTのデビュー曲「地元に帰ろう」ができてレコーディングへーーという展開に気分が上がりその後すぐ下がるという過酷な展開でしたが、アキ(能年玲奈)とヤング春子(有村架純)の夢の共演には気分沸騰でした(金曜101回)。
100回の大台を超えた途端、時空も制約も超えちゃいましたね、わーい。

同じく朝ドラ「カーネーション」ではヒロイン尾野真千子と彼女の少女時代を演じた二宮星が同一画面に登場する場面もありましたが、アキとヤング春子の時を超えた邂逅は夢オチといえども感動に震えるばかりです。

アキの夢といえば、8週44回の冒頭、種市先輩(福士蒼汰)に告白される1分15秒間が斬新でしたが、このときは事前に夢であると、夏(宮本信子)の語りで断っていました。
今回は放送開始10分30秒から12分44秒までの2分14秒、説明なしという、いい意味で相当乱暴です。

まあ明らかにおかしな場面で説明したらおもしろくないと思いますが、全国のおじいちゃんおばあちゃんもここをすんなり受け入れてしまったのでしょうか。「あまちゃん」をずっと見続けているうちにもうなんでもありになってしまったのでしょうか。「あまちゃん」は見る目を育てる朝ドラですな。


この夢、ふつうにアキとヤング春子の対話だったらとてもロマンチックですが、途中から鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が登場してはちゃめちゃになっていきます。
鈴鹿のいでたちは静御前で、アキ、春子、鈴鹿の三巴御前状態です。
クドカン先生は妄想シーンが十八番といってもいい。火曜98回で「実話をもとにしていたらヒットすると思ったらおおまちがいよ。現実なんか退屈」と鈴鹿に言わせていますしね。クドカン世界はリアルな生活の中に奇妙な妄想が挿入されることで現実が壊されていくのです。

静御前といえば、白拍子という巫女の系譜を継いでいる人物です。彼女がアキとヤング春子の夢に出てくることはとても理にかなっているんですよね。巫女→白拍子→女優という芸能の歴史を語る上で重要な存在ですし。

鈴鹿ひろ美の「段差がこわい段差がこわい」っていう細かいセリフもやっぱりあらかじめ脚本に書いてあるのかなあ。脚本家がちゃんと寮のセットを見ているってことなんでしょうかね。
ヤング春子の走り回り方までは指示してないと思うんですが、みごとに脚本のおもしろさに則していました。
17週の演出家・梶原登城さんと有村さんのセンス、ブラボーです。

月曜97回の冒頭で「という今週はヘヴィーな感じの幕開けですが徐々にバカみてえな感じに戻ると思います」というアキの語りが入りますが、この夢シーンのことだったのでしょうか。

それ以外はやっぱり相当へヴィーです。春子が影武者だったことや運が悪くアイドルになれなかったことを知ったアキは、さらに母の過去のとばっちりを受けて事務所をクビになってしまいます。それもデビュー曲のレコーディングが決まった矢先ですからショックもひとしお。

ワタクシ事で恐縮ですが、ここ数週間、自分が追い込まれていく暗黒感に囚われ妙に自信喪失しているのですが、それって完全にアキに感情移入しちゃっているからじゃないか!と気付きました。
なにしろ朝起きて最初に見るのがこのドラマですから影響力絶大ですよ。

それにしても影響され過ぎで。「全部運なんだよ!」という太巻(古田新太)のセリフ(99回)に打ちのめされ、完全な筋違いで古田さんがキライになりそうでした。
春子みたいに可愛くても実力があっても世に出られない人がいるのだと思うとそれ以下のひとはどうしようもないじゃないかと本当に気が滅入りますが、そこに光が。

土曜102回では、ついに春子が立ち上がってくれて、そんな暗澹たる気分が打破されそうな予感。上野に降り立ち、寿司屋にやってきた春子、かっけーかったですねえ。
あのサングラスがかっけー。
朝ドラっていうのは、どんなに辛い話になっても土曜には一旦上り展開になるっていうセオリーでもあるんですかね? 下げられたり上げられたり、すっかり「あまちゃん」のペースに乗ってしまっております。

火曜98回で「お母さんキャラは肝っ玉か良妻賢母でちょっと病気がち。男の勝手な願望じゃない。開店前の寿司屋でのんだくれている母親なんていない」と鈴鹿ひろ美がいいますが、「あまちゃん」の功績は、これまでの良妻賢母か肝っ玉系母親像の変革。今のアラフォー、アラゴー(アラフィフ)は美魔女になるなどヒロインから下りないですからね。
アキとヤング春子の共演もその象徴かもしれません。

かっけーといえば、17週はようやくアキのパパ正宗の「かっけー」ところが出てきました(月曜97回)。
8週44回で「正宗さんはほんとうの私を知ってる」と春子が言って、大吉が「試合に勝って勝負に負けたような」疎外感を抱いた場面がありましたが、その答えが判明しました。
個人的には誠実な正宗のことがかなり好きですが、ドラマの中では誰もが彼に「いらっとくる」と言い放ちます。
そんな正宗の印象が変わるエピソードがついに。鈴鹿ひろ美のゴーストとしてくすぶっているヤング春子が北三陸に帰ろうとしているとき、「日本全国のドライバーがあなたの歌に癒されている」「東京にはあなたの歌を必要としてる人がいっぱいいるんですよ」と励ましていたことがわかり、アキを感動させるのです。
振り返れば、7週で春子が「潮騒のメモリー」を歌っているときの正宗の表情に何か特別な思いを感じ、春子をとても愛しているのね・・・と思っていましたが、春子の秘密をそっと胸にしまい続けていたのですねとナットク。尾美としのりの表現力にも改めて感服。

正宗が春子に「ファン第一号なんです」というのは、ヒロシ(小池徹平)が3週20回で「アキちゃんのこと好きになったの、おれが一番すから!」と言うのと重なります。
しかもヒロシは「大吉さん(杉本哲太)が春子さんを待っていたようにおれもアキちゃん待ってるから」と言って、大吉のフォロワーでもあるわけです。このセリフ、その前の「ちょっと温度が高くて明るいんだよ」とアキの特性を指摘し、「場所でなく人」という春子のセリフを伝えたところと合わせてちょっと感動したのですが、が! が! 
大吉は天野家の上座に座ってご飯を食べるところまでのぼりつめたのもつかの間、土曜102回の展開では春子に捨てられてしまうみたいで、結局、正宗も大吉もヒロシもヒロインの本当の相手役ではなくファンに過ぎないという悲しい現実がつきつけられている気がしました。
それと、ヒロシの別れ際の握手が妙に長くて、何かのフラグ?と勘ぐってしまうし・・・。

いやいやいや、暗い考えは払拭しなくては!
気を取り直して、「あまちゃん」で繰り返される出来事について考えてみます。
アキが思いがけず春子の果たせなかった夢を引き受けてアイドルを目指すことになること。
ヒロシと正宗と大吉の立場が重なること。
安部ちゃんが喜屋武ちゃんのまめぶを七味で真っ赤にしてしまうことが、12週68回で勉さん(塩見三省)が長内(でんでん)の湯のみに七味を大量に入れることと重なること。
ヤング春子が鈴鹿ひろ美の歌声を担当することによって正宗が「鈴鹿ひろ美が好きなのか天野春子が好きなのかわからなく」なってしまうこと。
薬師丸ひろ子、小泉今日子、有村架純の姿と声が混ざる感じと、水曜99回で種市が大将(ピエール瀧)のマネをしてこれは小林薫のマネでという多重性がまたまた重なっていること。冷静に考えたら、七味まめぶはたくさんの登場人物の各々にそれぞれ目立つ場所を与え、かつ説明会話が退屈にならないようにという脚本家のはからいでしょうけれど、奇しくも過去の出来事を踏襲する結果になるのも何かの因縁ではないかなあ、なんて。
これらは似てはいますが、全く同じではありません。こんなふうに人間の営みは、日々、徐々に形を変えながら続いていく。いろいろな出来事が波のように寄せては返すのでございます(この一文、岸田今日子さんの声なんかを思い浮かべていただくと説得力あるかなと)。上がったり下がったり展開もそのひとつ。「あまちゃん」には諸行無常の響きがあります。う〜ん、「あまちゃん」、「平清盛」とつながっていたのか・・・と勝手に妄想が膨らみます。

18週は「自分が見れなかった景色をあの子に見せてあげたいんだ」と言う春子が大活躍? まさか、りえママのようにママがアキのマネージャーになるなんて展開じゃないですよね・・・。「地元に帰ろう」はどうなるのか!(木俣 冬)

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