連続テレビ小説「なつぞら」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

第17週「なつよ、テレビ漫画の幕開けだ」101話(7月26日・金 放送 演出・渡辺哲也)視聴記録


「え こんなに早く」
先日、雪次郎役の山田裕貴が「土曜スタジオパーク」に出たとき、雪次郎がヒロインみたいだ、「『なつぞら』じゃなくて『ゆきぞら』」と広瀬すずが言っていたと語っていた。「なつぞら」101回めは雪次郎のぐらぐら揺れる乙女心(?)が描かれた。女性がメインの朝ドラでは珍しいが、オトナの女性に若者が真面目に思いを寄せる姿がいじらしくて瑞々しい。

と思わせつつ、蘭子の女優として抱えた業の重さは、赤ワインのフルボディより重い。

雪次郎はまず、虻田(栗原英雄)に、劇団を出て新しい演劇をつくろうと誘われたものの、蘭子(鈴木杏樹)と一緒に芝居をやりたい、絶対に裏切らないとまっすぐ語る。
すると蘭子は笑い飛ばし、今日ここに呼んだのは芝居の「ダメ出し」をするためと言い出す。
蘭子は雪次郎を男としても俳優としても受け入れず、きついことを言って家から追い出してしまう。

「え こんなに早く」
傷心で風車にやってきた雪次郎を見て、とぎょっとなるレミ子(藤本沙紀)。いやあ、ほんとにレミ子いいキャラ。
その後、時間はすこーんっと飛んで朝。カウンターで隣り合ってタオルはおって寝ている雪次郎となつ(広瀬すず)。こんなところをもし坂場が見たら大変だろうなあ。でもそういう話は「なつぞら」にはない。

昨晩はさんざん飲んだのだろう。なつたちは何も聞かずにそれを見守っていたのだろう。
朝になってようやく雪次郎は昨夜のことを語りだす。虻田たちに誘われたことも正直言って嬉しかったと、それを見抜かれたんじゃないか、それで蘭子を傷つけたと思って泣く雪次郎。芝居に対する欲望もあるし蘭子とも一緒にいたい。そんな若さゆえの逸る気持ちを、蘭子は、一緒にいて気持ち悪い、下手くそ過ぎて使えない、もう一緒にはできないとメッタ斬りにした。
でも、亜矢美(山口智子)と咲太郎(岡田将生)が、あっちからこっちから出てきて(出方が舞台みたいで、何度見ても面白い)、蘭子の本心を想像する。なつも「自分といたら不幸になる」「誰も自分の犠牲にしたくない」と蘭子は思っているのではないかと想像する。その推測が当たっているのは、前の場面で描かれている。
雪次郎を追い出してひとり部屋に残った蘭子は、歌を歌い泣きながらワインを飲む。というところで、蘭子が本心で雪次郎を追い出したのではないことがわかるが、雪次郎はそれを知らない。

肩を落として風車を出る雪次郎はふと、亜矢美さんは咲太郎が好きなんじゃないかとなつに言う。自分のことでいっぱいいっぱいかと思いきや、他人の恋を気にする。なんかそういうところもいいんだよなあ「なつぞら」。

でも、なつは亜矢美と咲太郎にそんなことがあるとは思いもよらない。「へんなこと言わんでよ」と顔をしかめる。実際のとこどうなのか、その真実はまだわからない。

蘭子と雪次郎の『ゆきぞら』
蘭子は劇団の看板俳優だが、旧態依然の劇団の体質を批判して劇団員が出ていってしまうくらいだから、新しい時代の波に取り残されかかっている。雪次郎には未来がある。本来なら自分のために若いちからをつなぎとめておきたいところだけど、犠牲にしたくないという思いやりが顔を出したところがすでに、女優として停滞してしまっている気もするけれど、人情がもたげたところだって魅力的だし、もしかしたら、雪次郎に「劇団に残る」と情けをかけられるのもいやだったのかなとも思える。こんな蘭子を主役にドラマが一本描けるだろう。と、15分のドラマにいろんなことを考えて、ものすごい時間を費やしてしまった。

蘭子と雪次郎の回ではあったが、アニメ「百獣の王子サム」が何に怒っているのか、相手か自分かと坂場がなつに問うところで、人間の感情は複雑で難しいことが常盤御前の頃から綿々と書かれている。なつも坂場に対する自分の感情がよくわかっていない。仕事と生活、他者の問題をひとつひとつ切り離さず、すべてが主人公の人間形成に関わっているものとして描く。なんかそういうところがいいんだよなあ「なつぞら」。


さてさて、余談も余談。雪次郎と蘭子の場面はふたりが演じた「かもめ」の内容を知っているともっと楽しめると思う。蘭子が演じたアルカージナと雪次郎が演じたトレープレフはいわゆる愛憎深い母子。さんざんののしりあい(ドラマにも出てきた「デカダン!」のくだりである)、そのあと……というシーンは名場面だ。
また、ドラマの蘭子と雪次郎には、トレープレフとニーナが語り合い、名台詞「わたしはーーかもめ」「わたしはーー女優」と誇り高く言う場面も思い出す。お互いすでにもうだいぶ違うところに来てしまい、どうにもならない関係性がたまらないのだ。ちょうどふたりは、「かもめ」の千秋楽を終えたばかり。「かもめ」のテンションが残ってしまっていたとしても仕方ないかも。ただ、公演中、相手役に恋していた俳優が公演終わった途端、けろっと気を変えることもある世界らしいけれど。


【第18週あらすじ】「なつよ、どうするプロポーズ」7月29日・月〜8月3日・土 


なつ(広瀬すず)のテレビ漫画「百獣の王子サム」は大成功となった。東洋動画では新作の漫画映画を作ることになり、仲(井浦新)は下山(川島明)を作画監督に指名し、下山は坂場(中川大志)を演出に推薦する。坂場は社内では人気が今一つだったが、なつや神地(染谷将太)たちアニメーターの応援で、ついに坂場監督が実現する。坂場は西欧を舞台にした話を元にした企画を通し、なつと神地が原画を担当、映画チームは活気を取り戻す。
そして坂場は、もし映画が成功すれば、僕と一緒になって欲しいとなつに告白する。そんな中、下山と茜(渡辺麻友)の恋仲が発表され、現場はさらに勢いづく。

103回あらすじ  7月29日・月 放送


「なつぞら」101話。家に呼んでおいて「気持ち悪い」と追い出す蘭子(鈴木杏樹)のオンナ心

「なつぞら」101話。家に呼んでおいて「気持ち悪い」と追い出す蘭子(鈴木杏樹)のオンナ心

東洋動画の新年会で、大杉会長からテレビ漫画に力を入れるよう言われるなつ(広瀬すず)と坂場(中川大志)。新年会後、自分が映画から外されたのは、仲から嫌われているからだと言い出す坂場。だが、仲(井浦新)が才能を買っているはずのなつまで、テレビ漫画に移動させたことに疑問を持つ茜(渡辺麻友)。桃代(伊原六花)が、二人が付き合ってると思われているからではと言い出すが、坂場は付き合ってないと否定して…。
「なつぞら」101話。家に呼んでおいて「気持ち悪い」と追い出す蘭子(鈴木杏樹)のオンナ心

「なつぞら」101話。家に呼んでおいて「気持ち悪い」と追い出す蘭子(鈴木杏樹)のオンナ心

(木俣冬)

登場人物とキャスト 登場順


奥原なつ 広瀬すず 幼少期 粟野咲莉…主人公。戦争で父母を亡くし、兄と妹と別れ、剛男に連れられて北海道に引き取られてきた。生活を保障してもらう代わりに酪農の手伝いをする。父の描いた家族の絵を大切にもっている。生きるために感情を押し殺してきたが、柴田家、とりわけ泰樹と触れ合うことで、素直に感情を出せるようになっていく。これからは酪農の時代だと考え、十勝農業高校で学んでいる。演劇部に入る。

高校卒業後、アニメーターを目指して東京に出てくる。
佐々岡信哉 工藤阿須加 幼少期 三谷麟太郎…空襲のとき、なつを助ける。孤児院で働きながら勉強している。
柴田剛男 藤木直人…柴田家の婿養子。なつの父の戦友で、戦災孤児となったなつを十勝に連れて来た。妻を「ふじこちゃん」と呼ぶときがある。1955年時点では音問別農協組合で働いている。
柴田富士子 松嶋菜々子…剛男の妻。開拓で苦労してきたので、ひとに優しい。
柴田照男 清原翔(13 回から) 幼少期 岡島遼太郎…柴田家長男。搾乳をさせてもらえない代わりに薪割りを頑張っていたが、なつが来たことを機にようやく搾乳させてもらえた。
柴田夕見子 福地桃子(13回から)幼少期 荒川梨杏…柴田家長女。
牛乳嫌い。同い年のなつに嫉妬を覚えたが、剛男に説得されてなつを受け入れる。勉強ばかりして家の手伝いを全然しない。
柴田明美 平尾菜々花(13回から) 幼少期 吉田萌果…柴田家次女。
柴田泰樹 草刈正雄…柴田家当主。頑固者で幼いなつにも容赦なく厳しく接するが、意地悪ではなく、彼の人生哲学に基づいたもの。他人に頼らず己の力で人生を切り拓くことを心情としている。甘いものが好き。
なつをほんとうの家族にしたいと願い、照男と結婚させようとする。
奥原咲太郎 幼少期 渡邉蒼…なつの兄。タップダンスが得意で、米兵にかわいがられていた。孤児院を出て新宿で亜矢美に助けられ、ムーラン・ルージュを経て、浅草の劇場で働いていたが、盗み濡れ衣を着せられ捕まってしまう。
奥原千遥 幼少期 田中乃愛…なつの妹。親戚に引き取られている。

2回
焼け跡にいたおばあさん北林早苗…情にほだされなつたちに食べ物を分ける。演じている北林は朝ドラ第1作め「娘と私」の娘・麻里の少女時代役を演じた。
戸村悠吉小林隆…柴田牧場で働いている。貧しい開拓団の八男に生まれ、幼い頃に奉公に出され、泰樹に世話になった恩を感じて尽している。
戸村菊介音尾琢真…悠吉の息子。嫁募集中。

4回
小畑とよ 高畑淳子…帯広在住。泰樹の昔なじみ。口の減らない元気な人。
小畑雪之助 安田顕…とよの息子。菓子店・雪月の店主。菓子作りに情熱を注ぐ。
小畑妙子 仙道敦子…雪之助の妻。
小畑雪次郎 山田裕貴(13回から登場) 幼少期 吉成翔太郎…雪之助、妙子の長男。十勝農業高校に通っている。演劇部。高校卒業後、川村屋に修業に出る。

5回
山田天陽 吉沢亮 幼少期 荒井雄斗…音問別小学校でなつと同級生になる。東京からやって来た。馬が好き。農業をしながら絵を描いている。
大作 増田怜雄…音問別小学校の生徒。
実幸 鈴木翼…音問別小学校の生徒。
さち 伍藤はのん…音問別小学校の生徒。
山田正治 戸次重幸…天陽の父。東京から北海道にやって来たが土地が悪く、農業ができず、郵便局で働いている。泰樹の協力を得て、土地を蘇らせる。

8回
山田陽平 (31話から)犬飼貴丈 幼少期 市村涼風…天陽の兄。絵がうまい。東京で芸大に通いながらアニメの美術の仕事をしている。なつに絵画の道具を贈った。東洋動画に就職。

9回
なつの父 内村光良…日本橋で料理人をしていた。絵が上手。家族のことを思いながら戦死した。

10回
花村和子 岩崎ひろみ…音問別小学校の教師。 
校長先生 大塚洋…音問別小学校の校長先生。
山田タミ 小林綾子…天陽の母。

13回
居村良子 富田望生…十勝農業高校の生徒。演劇部に入り衣裳を担当する。「白蛇伝説」のラスト、白蛇として登場し喝采を浴びる。
村松 近江谷太朗…柴田牧場と長い付き合いのあるメーカーの人物。奥様封筒をもってくる。

倉田隆一 柄本佑…十勝農業高校の国語の先生。演劇部の顧問。「魂」が口癖。なつの問題、十勝の伝承を交えて「白蛇伝説」の台本を書く。

14回
田辺政人 宇梶剛士…音問別農協組合組合長。農協で一手に酪農事業をとりまとめ十勝を酪農王国にしたいと考えている。 

19回
門倉努 板橋駿谷 …十勝農業高校の番長。クマとサケを争った逸話をもつ。演劇部に入り、村長役を略奪する。
高木勇二 重岡漠 …十勝農業高校演劇部。メガネ。門倉に役をとられてしまう。
石川和男 長友郁真…十勝農業高校演劇部。
橋上孝三 山下真人…十勝農業高校演劇部。

21回
太田繁吉 ノブ(千鳥)…十勝農業高校の教師。ヤギのチーズは牛より「クセがすごい」と言う。

27回
前島光子 比嘉愛未… 川村屋のマダム
野上健也 近藤芳正… 川村屋のギャルソン
茂木一貞 リリー・フランキー… 角筈屋社長
煙カスミ 戸田恵子… 歌手。クラブメランコリーの看板。ムーラン・ルージュにいた。
三橋佐知子 水谷果穂…川村屋の店員。川村屋社員寮でなつと同室に。咲太郎を「同志」と思っている。
土間レミ子 藤本沙紀…カスミのいるクラブの店員。咲太郎のことが好き。「真心を一晩貸したままだから」返してほしいと思っている。

28回
島貫健太  岩谷健司
ローズマリー  エリザベス・マリー…浅草の踊り子

30回
藤田正士 辻萬長  親分
松井新平 有薗芳記 …浅草の芸人
岸川亜矢美 山口智子 …元ムーランルージュの踊り子。咲太郎を助けた。

31回
下山克己 川島明 …新人アニメーター
仲努 井浦新 … 実力派アニメーター

37回
阿川弥市郎 中原丈雄 … 東京から北海道に移住。彫刻で生計を立てている。
阿川砂良 北乃きい… 弥市郎の娘。

44回
杉本平助 陰山泰… 川村屋の料理長

45回
蘭子 鈴木杏樹… 劇団の女優
虻田登志夫栗原英雄… 劇団の俳優

49回
井戸原昇 小手伸也… 東洋動画アニメーター

55回

森田桃代 伊原六花…仕上げ課の先輩、といっても年齢はなつと同じで19歳。あだ名は「モモッチ」
山根孝雄 ドロンズ石本…仕上げ課のえらい人。
石井富子 梅舟惟永…仕上げ課のベテラン。といってもまだ30歳。
大沢麻子 貫地谷しほり…原画スタッフセカンド。周囲に一目置かれている才能あるアニメーター。
おしゃれしているなつを敵視している。
堀内幸正田村健太郎…動画スタッフ 芸大出身で、線画のきれいさには定評がある。

58回
露木重彦木下ほうか…演出家、第一製作課長
山川周三郎古屋隆太…東洋動画スタジオ所長

66回
泉千恵
岡部たかし
池間夏海

脚本:大森寿美男
演出:木村隆文 田中正ほか
音楽:橋本由香利
キャスト:広瀬すず 松嶋菜々子 藤木直人 岡田将生 比嘉愛未 工藤阿須加 吉沢亮 安田顕 仙道敦子 音尾琢真 戸次重幸 山口智子 柄本佑 小林綾子 高畑淳子 草刈正雄ほか
語り:内村光良
主題歌:スピッツ「優しいあの子」
題字:刈谷仁美
タイトルバック:刈谷仁美  舘野仁美 藤野真里 秋山健太郎 今泉ひろみ 泉津井陽一
アニメーション時代考証:小田部羊一 
アニメーション監修:舘野仁美
アニメーション制作:ササユリ 東映アニメーション

制作統括:磯智明 福岡利武
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