『おかえりモネ』第18週「伝えたい守りたい」
第87回〈9月14日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏、原英輔〉
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2019年9月(令和元年)。BUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」の歌詞<闇雲にでも信じたよ きちんと前に進んでるって>のように皆、少しずつ前に進んでいる。百音(清原果耶)も菅波(坂口健太郎)も莉子(今田美桜)も永浦家も……。
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百音は社長プレゼンで「あなたの町の気象予報士 全国津々浦々計画」を提案。社長には「これが採用になったら、永浦さん地元でおやりになるの?」と指摘され、菅波にも「気仙沼に帰りたいですか?」と百音の心を慮(おもんぱか)れる。
目下、『モネ』は百音の仕事(地元愛)と菅波との恋と、莉子の仕事の3本が軸になっている。この3つのどれに最も興味を引かれるかは人それぞれである。さて、みなさんはどれに引かれているだろうか。
百音の仕事
ウェザー・エキスパーツに入社して4年。百音も図などを駆使して社長プレゼンを行うまでに成長した。彼女が提案した「あなたの町の気象予報士. 全国津々浦々計画」とは気象予報士を全国各地に派遣し、その地域ならではの情報で地元住民をケアすること。地域密着で地域ならではの生活を把握し、医療とも連携し、より細やかな住民ケアを行おうというアイデアで、言ってみればウェザー・エキスパーツで行っているコンサルの各地域バージョン。ただ、そうすると、百音は地元に戻ってこの仕事をやるということなのかと社長に指摘されて、百音ははっとなる。
気象予報士を全国に派遣するにはたくさんのスタッフが会社として必要になるし、百音の私的な事情でこれほどの大きな事業を会社がはじめるにはリスクもあるだろう。でも百音がはっとなったのは、そこまで私的な目的を会社で果たそうとは思っていなかったからであろう。
彼女は潜在意識下で地元の気候を把握して、もう二度とあの時のようなことが起こらないようにしたいと思っているだけで、だからこそ指摘されてはっとなったのだと推測できる。
菅波と百音
2カ月前の夏、百音は汐見湯の番台前で2カ月ぶりに会った菅波に「全国津々浦々計画」の相談をしていた。気象の仕事を医療にも結びつけ、恋人に相談に乗ってもらう、それすなわち、軌道に乗れば一緒に仕事ができるということである。恋と仕事が一緒になる、ある種の理想的なパートナーシップの形ができつつあった。やるなあ百音。
菜津(マイコ)はふたりの似顔絵を番台から描きながら、ふたりに、仕事ばかりしないで食事にでもいけば?と助言する。似顔絵に、ふたりの写真を撮っていた田中さん(塚本晋也)を思い出す。
第6週に登場した田中さんは百音の父母の友人でカメラマン。気仙沼でジャズ喫茶をやっていたが、ガンを患って菅波に診てもらっていた。まだ知り合ったばかりの百音と菅波の写真をこっそり撮って店に飾っていた。その後どうしているのやら……。
その写真よりも菜津の似顔絵のふたりはだいぶ接近している。並んで企画書を見ているふたりの肩のふれあい方もかなり密接。
百音と菅波とがなかなか付き合わないで慎ましかったからこそ、かなり好意的にふたりを見守ってきた今だから微笑ましく観ることができるものの、初期でこういうベタついたやりとりがあったらいらっとなったかもしれない。極めて慎重にふたりを描いたことは大成功だったと感じる。
莉子に転機が……
今、世間では「俺たちの菅波」として菅波が理想の男子として受けている。百音と菅波の関係に注目が集まる中、莉子と高村(高岡早紀)のエピソードが地味ながら光る。内田(清水尋也)のイケメンパワーに押され気味の莉子に高村が帯番組の報道キャスターの話を持ってくる。だがそれは地方局のものだった(仙台)。高村はかつてキャスターの座を降りた経験があり、莉子を心配していて、この話も地方局のディレクター発のように言っていたが、莉子は高村が推薦してくれたのだと気づく。自分が言ったと言わないところに高村の莉子への気遣いがあり、それを察する莉子も敏(さと)い。
高村が莉子に話があると来た時、降板?と不安になる莉子と百音。いつも莉子が心配しているからと百音はずけずけ言い、莉子は莉子で心情を百音に隠していない。
仲良くなんでも話せるのは利害関係がない者同士で、たいていはあからさまに仲悪いか、表面的には仲良いが本質的なことには触れないか、どっちかだろうから、ドラマでこういうふうに描かれるとホッとする。これは莉子がものすごくさばさばした人物だからこそ成り立っていることであり、おそらく彼女がこれまでずっと恵まれてハッピーに生きてきたからこそ、他者に対して悪い気持ちを持たずにいられるのであろう。莉子の生きてきた道はここでちゃんと生きている。
とはいえ、恵まれたお嬢様がわがままで意地悪というパターンもあり、人による。たまたま莉子は他者を羨んだり足を引っぱったりするような考え方のない人物だったのである。
永浦家のこれから
亀島と気仙沼本土に橋がかかり、島の生活も変わりはじめる。亜哉子(鈴木京香)が雅代(竹下景子)のやっていた民宿を再開したいと言うが、耕治(内野聖陽)が反対する。永浦家でもいろいろ事情が……。悩む亜哉子の表情にようやく年齢相応の老いが見えてほっとした。無理に若くきれいに見せ過ぎていると、永浦家や気仙沼編に出ている人生のシワが刻まれた俳優たちと差異が出過ぎることが筆者は気になっていた。もちろん嫁に来た立ち場だから若干浮いているにしても、嫁に来てもう時間も経過し、姑もいないわけで、永浦家の人間として生きる顔になってきたというところであろうか。
今や、牡蠣から葉っぱに転生し、その後どうなってるのかよくわからない雅代のナレーションのほうがいつもあっけらかんとしていてドラマと浮いてきている気がする。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami