『おちょやん』第14週「兄弟喧嘩」

第66回〈3月8日(月)放送 作:八津弘幸、演出:小谷高義〉

朝ドラ『おちょやん』ハナが亡くなりチャップリン来日 そしてみつえには長男・一福
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

結婚から3年、千代の不満が募る

「今日もいい天気やな」
千代(杉咲花)一平(成田凌)は結婚。一平は天海天海を襲名。それから3年が過ぎた、昭和7年、千代は和髪から洋髪になり、ちゃっきちゃきの女将さんに成長した。


【前話レビュー】『おちょやん』私のために笑い、泣いてくれる人です――千代と一平が結婚

襲名、結婚発表の65回の視聴率は18.9%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)で番組最高。ここから後半戦、盛り上がりに期待したい。

13週の勝因として考えられるのは、親子の物語。別れた母と子、亡くなった父と子の、哀しいお話。それぞれの愛情が素直に伝わらないもどかしさとそこに差し込む一筋の光。こういう話に人は弱いのである。

第14週は、夫婦関係と、千之助(星田英利)万太郎(板尾創路)の兄弟関係が中心になる。またしても本音と裏腹の意地の張り合いがありそうだ。

さて、千代と一平の家には、毎日、毎晩、鶴亀家族劇の劇団員が飲みに来て、そのまま雑魚寝して、朝、千代の味噌汁を飲む日々。一平は、せっかく作った朝食もとらず、思いついた台本を書きはじめる。

その日は、千代たちの結婚のあとほどなく亡くなったハナ(宮田圭子)の月命日。一平を家に残し、ひとりお参りに岡安に来た千代は、シズ(篠原涼子)に愚痴る。


ここでびっくりなのは、ハナさんが亡くなってしまったこと。亡くなる前に、千之助とハナだけが知っていた一平の母問題が解決してホッとしたことであろう。襲名披露で「二代目」と声をかけて満足したのかと思うが、亡くなって残念。

シズは千代に「離縁し」とすすめる。家庭を顧みず、芝居のことばかりで、ついでに飲んでばかりの一平なら結婚している意味はないからと。

朝ドラ『おちょやん』ハナが亡くなりチャップリン来日 そしてみつえには長男・一福
写真提供/NHK

それを受けて千代は一気にこれまでの不満をぶちまける。早口で一気に不満をまくしたてる千代の勢いがすごい。こうしてすっきりさせるのがシズの作戦で、「ここは実家のようなものです」と千代にいくらでもガス抜きするように言う。時々不満をこぼしながら、夫をしっかり支える。「それがあんたの選んだ道や」とシズは説く。

「男はんにはな、女の苦労なんてわかりはしませんのや」と旦さん(名倉潤)がいない隙に言うシズ。だが彼女の場合、旦さんは良い人で苦労していない。
苦労するとしたら、商売の役に立たない、頼りないところであろう。千代と苦労の内容が違う。

そこをわやくちゃにしていることや、かいらしい息子の一福が生まれたみつえ(東野綾香)と、まだ子どもをつくる余裕のない千代の奥さんトークなど、女性の描き方は相変わらずステレオタイプで、この週もまた男の世界に突入し、そっちが生き生きしていく。

主人公の甘い新婚生活をこれっぽっちも描ないところに結婚という現実の荒涼とした砂漠感が漂う。「あんた、劇団と結婚したのとちゃうんやで」というみつえの言葉が千代のいまの苦労を端的に示している。

チャップリンが来る

いつもじわじわと顔にズームアップしていく大山社長(中村雁治郎)が、喜劇王チャップリンが日本にやってくるので、鶴亀株式会社のいちばんおもしろい劇団を見せようと考える。実際、チャップリンは1932年に初来日している。

候補は万太郎一座と家庭劇。このふたつの劇団の一騎打ちで、選ばれたほうがチャップリンに会える。「派手な兄弟喧嘩を存分に楽しませてもらう」との大山の伝言を受けて、俄然燃える千之助。なにしろ彼は万太郎に激しいライバル意識をもっているから。

かつて、万太郎と組んでいたものの、彼に見捨てられ、いつか見返そうと芸に磨きをかけている。第65回でも、襲名披露式に万太郎が来ていて不敵な顔してゆで卵を食べていた。
家庭劇の動向を気にしているのだろう。

朝ドラ『おちょやん』ハナが亡くなりチャップリン来日 そしてみつえには長男・一福
写真提供/NHK

千之助は、この大事なときに一平には任せておけない。自分が台本を書き、主役もやるという。3年経って、劇団も人気らしいにもかかわらず、千之助は未だ一平を認めていないらしい。

万太郎一座 対 家庭劇の戦いは、次回以降の楽しみとして、66回では、黒衣(桂吉弥)のチャップリンの紹介に注目。レジェンド映画評論家・淀川長治の口調で紹介する芸達者ぶりを発揮した。淀川長治はチャップリンを愛し、その魅力を紹介してきて、書籍も出しているので、ここで、黒衣が真似をするのはちょうどいい。

「さよなら、さよなら、さよなら」は淀川のお別れの挨拶の定番。「さよなら、さよなら、さよなら」と言いながら黒衣をかぶって画面が黒くなる見せ方が遊び心を感じてよかった。土曜日の総集編の黒衣のやらかい語りも聞き心地よく、彼は『おちょやん』のまさに影の功労者である。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■板尾創路(須賀廼家万太郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■曽我廼家寛太郎(小山田正憲役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■坂口涼太郎(曽我廼家百久利役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■華井二等兵(須賀廼家一二九役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村鴈治郎(大山鶴蔵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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