世界が注目した5月の米中首脳会談は習近平国家主席の「大国」意識が目立つ一方、トランプ大統領は押され気味だった感がある。
「トゥキディデスの罠」まで引用
今回の首脳会談では米中双方が融和ムードを演出しようとする姿勢が浮き彫りになった。習主席が「米中はライバルではなくパートナーになるべき」と述べたのに対し、トランプ大統領も「両国の関係はかつてないほど素晴らしいものになるだろう」と応じた。
中国側の発表では両首脳は「建設的戦略安定関係」を構築することで一致した。「建設的戦略安定関係」が何を意味するのか明確ではないが、中国が米国と対等な大国として共に世界をリードしていこうとする習主席の意図が感じられる。
この習主席の大国意識は会談全体を通してにじみ出た。トランプ大統領との初日の会談では何回となく「大国」という言葉が習主席の口から飛び出した。米国の政治学者が使った「トゥキディデスの罠」という政治概念まで引用して中国が大国であることをほのめかしたのは驚きだ。この「トゥキディデスの罠」は新興国が台頭して既存の大国の地位を脅かすときに両者が戦争になるリスクが高まるという仮説だが、習主席は米中でこのわなに陥らずに協力し合おうと言いたかったのだろう。
米国に警告でなく“脅し”?
習主席の大国意識と自信が鮮明に現れたのは台湾問題に関する発言。習主席は首脳会談で真っ先に台湾問題に触れ「適切に処理できなければ双方は衝突し、両国を非常に危険な状態に追い込む」と力説した。
習主席の発言は米国に対する強い警告と多くのメディアが報じているが、中国問題の専門家は「台湾問題で中国が公式の場でこれほど露骨に米国に迫ったことはなく、これは警告というより“脅し”に近い」と説明する。
初日の首脳会談後、北京市内にある世界遺産の天壇公園を両首脳が訪問した際、台湾について話したかと問われたトランプ大統領は無言を貫いた。記者の問いかけには即答し、雄弁に語ることが多いトランプ氏だが、ホワイトハウス担当のある米国人記者は「普段のトランプ節は不発に終わった」と語った。
大統領は中国からの帰途、台湾問題について議論したことを認めた上で、習主席から中国が台湾を攻撃した場合の米国の対応について問われたが、自分は何も話さなかったと明らかにしている。
「中国ペースで進んだ」との見方も
台湾問題に限らず、今回の首脳会談ではトランプ大統領の言動はいつものような派手さがなく控えめだったとみる向きも多い。ニューヨーク・タイムズの記者は「トランプ大統領が融和的で控えめだったのに対し、習主席は堂々とした態度だった」と述懐している。
米中関係の専門家は「首脳会談で習主席が強硬な台湾発言で機先を制し、全体的に習氏のペースで進んだ」と分析する。そもそも、今回の首脳会談に先立ち、米メディアの間では「中国が優位に立つ」との見方が広まっていた。支持率が低迷する中、11月に中間選挙を控え目先の実利が欲しいトランプ政権に対し、習政権は成果を急ぐ必要には迫られておらず、時間的余裕があるとみられていたからだ。
重要議題の一つだったイラン情勢をめぐっては、中国はホルムズ海峡の開放やイランの核保有反対で米側と一致したとされているが、これらは中国の既定方針であり、何ら譲歩ではない。また、トランプ大統領は習主席からイランに軍事装備品は供与しないと約束されたとも言っているが、中国は以前からイランへの軍事支援を否定しており、新しいことではない。
事前協議で予想されていた成果
トランプ大統領が「素晴らしい貿易合意に達した」と述べ、大きな成果があったとアピールした点についても、「第1次トランプ政権のときの対中大型合意に比べれば、それほどの成果ではない」(米CNNのコメンテーター)と見方もある。
その端的な例がトランプ大統領の誇示するボーイング製航空機購入の話。大統領によれば、中国が200機購入することになったというが、事前の報道では500機規模の発注と伝えられていたし、2017年のトランプ訪中の際のボーイング300機購入という商談と比べても見劣りする。
米国産の大豆や原油、液化天然ガス(LNG)の購入を中国が約束したとされるものの、米中関係の専門家は「中国にとっては切りやすい交渉カードを使っただけで、習主席が大幅に譲歩したとは言い難い」とコメントする。
経済・貿易面で今回、米中が合意したものの多くは事前に行われた7回に及ぶ両国の閣僚級貿易協議で予想されていたもので、トランプ大統領が自賛するような目新しい成果はなかったとの指摘もある。今後は9月に行われる予定の次の米中首脳会談に向け双方がどんな動きを見せるかに注目が集まることになろう。











