
みんなでパンケーキを毒見しに行こう
7月30日(金)に公開された映画『パンケーキを毒見する』(←「毒味」ではなく「毒見」)。まずはこちらの予告を観てほしい。【視聴】『パンケーキを毒見する』60秒予告
プロデューサーのインタビューの発言が、実写映画の実力不足を、大ヒットアニメ映画のせいにしていると炎上したり、ポスターの黄色い菅総理のメインビジュアルに、ややとっつきづらさもあるが、映画ファンのみならず、日本全国の人に一度観てほしい映画である。
映画自体は、重そうに見えるが、ブラックユーモアや風刺アニメたっぷりで、口に入れてしまえばそれこそパンケーキのようにペロっと完食してしまえる軽さがあるので、ぜひ毒見していただきたい。

メインナレーターは、逃げ恥などのドラマや、様々な映画で名バイプレイヤーとして活躍するメガネでヒゲのおじさんこと古舘寛治。

劇場から漏れてくる笑い声
公開当日の初回を観に行った。平日の昼前だったが、ほぼほぼ満員の客入りである。この映画の題材は「パンケーキ好きの令和おじさん」こと菅義偉内閣総理大臣。政治バラエティ映画と銘打ってあるが、予告に出てくるのはおじさんばかり、多少の重さは覚悟していた。しかし、劇場から漏れてくるのである。クスクスクスクスという笑い声が……

実際、吹き出してしまうような場面がいくつもある。
国会コント「答えられない男」
この映画でもっとも笑いが漏れていたのが、ニュース番組では編集され、端折られがちな国会討論会を、ノーカット解説付きで説明してくれたシーンだ。解説がつくと途端に、普段ニュースでしか観ていなかったお堅い国会中継が俄然面白くなってくる。国会中継は毎回この形式でやってほしいと思えてくるくらい面白い。いや、面白いのだが、段々そうも言えなくなってくる。
質問に答えない総理として、毎日のようにネットニュースを騒がす菅総理、この映画で言うと、早い話が、まともに答えられないようなマズいことをしているから、素直に答えられないのである。

何かマズいことをしでかしたのが親や教師にバレ、「やったの? やってないの?!」と聞かれ、ゴニョゴニョゴニョゴニョ見当違いのことを答える生徒のそれである。ちなみに彼が支えた安倍前総理は、問い詰められると、口からデマカセ嘘八百を並べ立てていたが、菅総理はそれもできない。

いちいち後ろからその場で原稿を書いてもらい、それが出てくるのを待っている。自分の言葉では何も言えないのだ。そして何を言うかと思えば、聞かれたこととは全く噛み合わない見当はずれな返答ばかり。しかも、質問に答えていないぞと問い詰めると、また一連の流れを繰り返すのである。
これはうんざりする。質問している方はもちろん。見てるこっちもうんざりする。しかし、ツッコミありで見ていると、すれ違い系コントのようにも見えてくる。劇場から笑いが漏れてきた理由はここにある。

しかしこれも彼の作戦なのかもしれない。人々が政治にうんざりし、政治から関心を無くし、投票に行かなければ投票率は下がる、投票率が下がれば一部の熱狂的ファン(支持者)に支えられている与党は安泰だし、自民党総裁である自分自身はいつまでも総理の椅子に座っていられる。
菅総理は総理の椅子に座って何がしたいのか
総理の椅子。この映画を観ていて、一つの疑問が頭をよぎった。この人は何を成し遂げたくて秋田の農家の良いとこの坊ちゃんから、総理にまで上り詰めたのだろう。今の姿からは、何か大きな目標を成し遂げたくて(例えば、安倍前首相の場合は憲法9条改正)総理を目指したようには見えない。ふと思った。この人は総理大臣になりたいというというのが最大の目的で、総理になってから先のことは何も考えていなかったのではなかろうか。
聞かれたことに答えず、すべてをうやむやにしていく彼の語気からは、彼が総理になって何をしたいのかが全く伝わってこない。所信表明演説の「2050年までに温室効果ガス実質ゼロ」という目標すら、誰かに用意してもらったように思えてならない。
あれでもこれでもG7最下位
しかし我々は、うんざり攻撃で政治にうんざりして、政治に関心を失っている場合ではない。さまざまな人物のインタビュー(菅総理関係の人間には議員からパンケーキのお店まで軒並み断られている)とアニメの数珠繋ぎで、笑ってしまうような展開もあったこの映画だが、最後の最後に統計によるデータという誰にもはぐらかせない事実を叩きつけてくる。再生可能エネルギーの開発、労働生産性、男女平等指数、幸福度ランキング、あらゆる面において日本はG7中ダントツの最下位。
※G7…先進国というくくりの7カ国(米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本)。

昭和の戦後復興以降の人口ボーナスで築いた財産は、バブル崩壊以後、平成で食い尽くし、残りカスに利権業者が群がっている。しかし、そんな国になった責任の一端は、政治から目を背けてきた我々国民にある。国会議員は国民が選んでいるのだ。
ツイッターは政治批判だらけなのに、投票率は上がらない不思議の国ニッポン
投票に行くのは高齢世代ばかりで、多くの若い有権者は、仕事とプライベートに忙しく政治に関心を持たない。いや! もちろん私は選挙に行っている! という人もいるだろう。実際、ツイッターでは「選挙に行こう!」「選挙に行くべき理由」「投票の仕方」などのイラスト付きのツイートが、選挙のたびに何度もバズってきたし、政権批判的なツイートは、それこそ毎日のようにバズりまくっている。


(※ちなみにこちらは2016年の参院選の時に描いて、そこそこバズったイラストを一部訂正したもの)
だが、毎回選挙結果と投票率が報道されるたび、ツイッターと世間の温度差に愕然とする。どの選挙も投票率は毎回50%前後をフラフラ。
いや、効果はゼロではないし、それ自体を批判しているわけではない。ただそれだけでは足りないのは毎度の結果で明白な気がする。政治に興味がない人間は、どれだけ危機感を煽っても、彼らにとってはヒトゴトだし、自分の1票程度で世の中は変わらないと思っているのだ(正直言うと、筆者が投票行かなきゃ!と思ったのは、会社をやめて初めて自分で確定申告をした20代半ば以降である)。

それこそ、SNSで見ず知らずの人間にいくら呼びかけられようが政治にも選挙にもハナから興味がないし、選挙など行くつもりもない。むしろ、行かない理由を探している。では、どうすれば投票率は上がるのか。
投票率を2倍に引き上げる方法
とんでもなく単純だが、もはやこれしかないのではなかろうか。投票に行く人間が、
投票に行かない人間を、
ガチで選挙に連れていく。
2人に1人が選挙に行かないのであれば、選挙に行かない人間を、選挙に行く人間が直接投票所に連れて行けば、単純に投票する人間が倍になる。

アホか! と言われそうだが、案外効果的だと思う。連れて行くのが現実的でないなら、家庭、職場、学校、プライベートで「近々選挙だけど、もう期日前投票行った?」と選挙の話を振り、「選挙何それ美味しいの?」と言われたら、その都度投票の重要性を直に説くしかない。

ちなみに、次回の衆議院議員総選挙は今年の秋に行われる。与党はなるべく先延ばししようとしているが、先延ばしにすれば、それだけこの映画の鑑賞者が増えるということも意味する。前述の通り、作り手の発言が残念な映画ではあるが、その問題も含め、ぜひ選挙前にあなたもパンケーキを毒見してみていただきたい。
(ウラケン・ボルボックス)
【関連レビュー】目の覚めるような真実も『パンケーキを毒見する』が迫る菅首相の人物像
【関連レビュー】#オリンピック観ない人にオススメの映画
【関連レビュー】選挙事務の裏側に迫る。投票所の事務作業日当3万4千円は高いか安いか
作品概要
7月30日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開『パンケーキを毒見する』
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
監督:内山雄人
音楽:三浦良明 大山純(ストレイテナー)
アニメーション:べんぴねこ
ナレーター:古舘寛治
制作:テレビマンユニオン
配給:スターサンズ
配給協力:KADOKAWA
公式サイト:https://www.pancake-movie.com/
(C)2021『パンケーキを毒見する』製作委員会
ウラケン・ボルボックス
東京から福岡に移住した映画好きのイラストレーター。主な著書『なんてこった!ざんねんなオリンピック物語』JTBパブリッシング、『侵略!外来いきもの図鑑もてあそばれた者たちの逆襲』PARCO出版。
オフィシャルサイト