中国の強硬な対外発信は逆効果であることが分かった。中国が自国を持ち上げながら米国を批判する比較広告型の投稿が日本、韓国、台湾の人々にどのように受け止められるのかを検証したところ、3地域すべてで中国への好感度が下がる傾向が確認され、特に韓国で影響が大きく見られた。

「中国は優れており、米国は混乱している」。

このように自国を強くアピールし、相手国を批判する中国の発信方法、すなわち「戦狼外交」は東アジアの市民にどのように受け止められているのだろうか。

早稲田大学政治経済学術院の小林哲郎教授、神戸大学大学院法学研究科の周源助手(現在は岡山大学大学院社会文化科学研究科・講師)、Koç University Graduate School of Social Sciences and Humanities博士課程学生の関颯太氏は日本、韓国、台湾の3地域で計6091人を対象に事前登録済みサーベイ実験を実施し、中国を持ち上げながら米国を批判する、いわば「比較広告」型の「戦狼外交」ツイートに接触した場合の効果を検証した(事前登録済みサーベイ実験とは、実験を行う前に仮説や分析方法をあらかじめ登録した上で実施する調査手法。後から都合のよい分析結果だけを選ぶことを防ぎ、研究の信頼性を高める)。

その結果、3地域すべてにおいて中国への好感が有意に低下し、特に韓国で大きな反発が確認された。さらに、一部では米国への評価も低下した。一方で、民主主義への支持が弱まる効果は確認されず、投稿を共有したいという意向も低いことが明らかになった。これらの結果は、中国の強硬な対外発信が、東アジアの世論に働きかける上で、影響力の拡大よりも評価の悪化を招く可能性を示唆している。

中国の強硬な対外発信は逆効果、日韓台での実験で好感度低下を確認
図1

図1は、日本、韓国、台湾の3地域ごとに、中国を持ち上げながら米国を批判する「比較広告」型の「戦狼外交」ツイートに触れたとき、人々の評価がどの方向にどの程度動いたかを一覧で示したものだ。図の左側にあるほど、投稿に触れた人の評価や、投稿を広めたいという気持ちが低いことを示している。

この図から最も明確に読み取れるのは、中国への好感が3地域すべてにおいて低下していることだ。特に韓国では低下幅が大きく、中国政府への信頼や中国の国際的影響力への評価も下がっている。

また、一部の地域では、米国への好感や米国の国際的影響力への評価も低下した。

さらに、日本と韓国では「共有意向」が大きく低下しており、強硬な投稿は受け手に「広めたい」と思われにくいことが分かる。他方で、「民主主義への支持」は3地域ともほぼ変化しておらず、東アジアの民主主義社会にはこうした情報発信に対して一定の耐性があることも、この図から直感的に読み取れる。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

中国は近年、SNSや記者会見を通じて相手国を強く批判しつつ自国の優位性を打ち出す「戦狼外交」と呼ばれる発信を続けており、これは過去の一時的な現象ではなく、現在においても見られる特徴だ。中でも、中国を持ち上げながら米国を批判する「比較広告」型のツイートはその代表的な形の一つだ。

このような強硬な対外発信は世界的にも注目を集めており、インドや米国などを対象に、その影響を検証する研究も出始めている。先行研究では、強い言葉で相手を攻撃する発信は中国のイメージ改善につながりにくく、むしろ受信国の市民の反発を招く可能性が示されてきた。

一方で、日本、韓国、台湾は中国と地理的に近く、歴史、安全保障、経済の面で関係が深いにもかかわらず、この3地域の市民が中国の強硬発信をどう受け止めているかについては十分に検証されてこなかった。東アジアの世論は各国の外交や安全保障政策にも影響を及ぼし得ることから、この点を実証的に確かめる必要があった。

(2)今回の研究で明らかになったこと

本研究では、日本、韓国。台湾の18歳から79歳までの市民を対象に各国約2000人、合計6091人から回答を得る大規模なサーベイ実験を実施した。参加者は無作為に二つの群へ分けられ、対照群には中国の自然風景や文化を紹介する政治色の薄い投稿を5件、処置群には中国の優位性を強調しながら米国を批判する、いわば「比較広告」型の「戦狼外交」ツイートを5件提示した(例は以下の図を参照)。

その後、参加者に対して、中国および米国への好感、政府への信頼、国際的影響力の評価、民主主義への支持、そして投稿を自ら共有したいかどうかについて質問し、回答を比較した。
中国の強硬な対外発信は逆効果、日韓台での実験で好感度低下を確認
(ア)対照群
中国の強硬な対外発信は逆効果、日韓台での実験で好感度低下を確認
(イ)処置群

分析の結果、強硬な投稿を見た人は、3地域すべてにおいて中国への好感を有意に低く評価していることが明らかになった。低下幅は韓国で最も大きく、日本と台湾でも同様の変化が確認された。韓国では中国政府への信頼や中国の国際的な影響力に対する評価も低下した。

他方で、米国への評価の低下は一部にとどまった。さらに重要な点として、民主主義への支持には大きな変化は見られず、強硬な投稿を自ら広めたいと考える人も、日本ならびに韓国で少ないことが分かった。

つまり、中国の強硬な対外発信は、外国市民の支持を広げるという点では有効ではなく、むしろ中国への印象を悪化させやすいことが示された。本研究は、権威主義国家による対外情報発信の限界と、東アジアの民主主義社会の受け止め方を、大規模な比較実験を通して具体的に示した点に特徴がある。

(3)研究の波及効果や社会的影響

本研究は、中国による強硬な対外発信が東アジアの世論にどのような影響を与えるのかを、実証データを示したものだ。国際情勢の緊張が高まる中、各国政府やメディア、研究者が、中国が自国を持ち上げつつ米国を批判するような比較広告型の外交メッセージをどのように評価すべきかを考える上で重要な知見を提供する。特に、攻撃的な発信が相手国の市民の理解を得るどころか、反発を強め、場合によっては米国に対する評価にも影響を及ぼし得る点は、国際広報や公共外交のあり方を見直す上で重要な手掛かりとなる。

また、本研究において、民主主義への支持がいずれの地域でも揺らがなかったことは、東アジアの民主主義社会が外部からの強い情報発信に対して一定の耐性を持つことを示している。

これは偽情報対策、情報空間の健全性、国際世論形成の研究にもつながる成果だ。外交研究だけでなく、政治コミュニケーション、メディア研究、安全保障研究など幅広い分野への波及が期待される。

(4)課題と展望

本研究では日本、韓国、台湾の3地域を対象に実験が行われたが、他の地域や政治体制の異なる国々で同様の反応が起こるかは、今後さらに検証する必要がある。また、今回は短期間の影響を調べた研究のため、同じような発信に長く繰り返し触れた場合にどのような変化が起きるのかまでは分かっていない。

今後は受け手の政治意識、対中認識、メディア接触および社会的文脈の違いがどのように効果を左右するかを詳しく分析する予定だ。東アジア以外の地域との比較や、より多様な対外発信の形式を対象にした研究を進めることで、国際社会における情報発信の有効性と限界をより包括的に明らかにしていく。

(5)研究者のコメント

国際社会では、強い言葉で相手を批判する発信が注目を集めやすい一方で、それが実際に人々の態度をどう変えるのかは、必ずしも直感通りではない。本研究では、東アジアの市民を対象に、その効果を実証的に確かめた。対立が深まる時代だからこそ、印象論ではなくデータに基づいて国際発信のあり方を考える必要があると考える。東アジアの民主主義社会がどの程度こうした発信に耐性を持つのかを具体的に示せた点に、大きな意義があると考えている。

編集部おすすめ